赤い顔がまた覗いている

 彼はこんな気もちでまた上の方に眼をやった。綱のようなものが一尺ほど井戸の口からさがっていた。(不思議なものが見えて来たぞ、何だろう、何人《だれ》かおるだろうか) 綱のようなものは三尺近くもさがって来た。(たしかに綱じゃ、何人か俺が落ちたことを知って、助けてくれるために、綱を垂れているのだろう...

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茶色の二つの眼が光っていた

 赤い顔の周囲《まわり》には白い毛並があった。茶色の二つの眼が光っていた。それは猿であるらしい。(猿じゃ、人間なら引きあげて貰えるが、猿じゃしかたがない) 大塚はがっかりしたように云った。覗いていた赤い顔がきゃっきゃっと二三回声をたてたかと思うと、もう見えなくなってしまった。(人間の真似ができ...

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餓死にすることは、武士の恥じゃ

 大塚はこんなことを云いながら歩きだした。彼は今朝早くから谷から谷をあさっていたが、腰の袋に一羽の山鳥を獲っているだけで他に何も獲っていないので、何か一二疋好い獣を獲りたかった。兎は彼の眼から放れなかった。彼はもしやそこらあたりに隠れていはしないかと思って、注意しいしい歩いた。 大塚は谷の窪地の隅...

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